ストラングラーズの歴史を考える上で、80年代の「エピック・イヤーズ」の傑作群を外して考えることはできない。今年に入ってからも、この時期の「アイス・クイーン」や「アップタウン」がセットリスト入りし、今もなお、バンドにとってこの時期の作品が重要な意味をもっていることがうかがえる。
そして、このたび、久しぶりに「黒豹(FELINE)」「オーラル・スカラプチャー」「夢現(DREAMTIME)」「オール・ライヴ(ALL LIVE AND ALL OF THE NIGHT)」「10」の5タイトルがこのたび、めでたく復刻されることになった。


   
この時期のタイトルは、海外盤で5タイトルセットも出回っているし、今の時代はストリーミングで手軽に聴くことも容易だ。しかし、それでもなお、今回の復刻5タイトルは、ファンなら一生モノのコレクションとして持っておく価値は充分にあると思う。


   
   
まず実物を手にとって驚かされるのが、紙ジャケの質感だ。例えば「黒豹」においては、ジャケット中央の豹がエンボス加工で立体な質感を持っている。また、「オーラル・スカラプチャー」のジャケットは、背景の青空が色彩感に富んでいる。
これらの復刻作業は、印刷会社の人に「はい、この仕様でお願いします!」と投げてスムースに出来上がってくるものでは決してないだろう。制作作業に明らかに相当の手がかかっていたことがうかがわれる。
     

「オール・ライヴ」のジャケットは、もとは見開きだったらしく、演奏風景がサイケデリックに加工されている表面の写真と、メンバーが明るい白色をバックに演奏している写真が見開き面にちゃんと入っている(CDでは、盤によっては見開き面を表にしてしまっているバージョンも存在)。オリジナル当時の仕様に限りなく近づけて、制作しようとした労力がうかがえる。
   

日本でアナログLP時代に国内盤発売されていたのは「夢現」まで。それ以降の「オール・ライヴ」「10」を紙ジャケ化するにあたっても、もし当時これらのタイトルがアナログで出ていたらどんな仕様になっていただろうか?という、空想というか想像力が駆使されて、リアル感をもって制作されているところも、大変興味深い。
  
  

   
また、今回の5タイトルは日本のみの限定復刻であるにもかかわらず「リマスター」がされている。他のアーティストの名盤でよくあるパターンでは、紙ジャケになったりCDの盤質スペックがあがっても、マスターはそのままというケースが多いので、このことには結構驚いた。そして、おなじソニーミュージック1999年国内盤と聴きくらべても、やはり音の豊かさや輪郭は向上している。
たとえば、オーラル・スカラプチャー1曲目の「アイス・クイーン」イントロの、ヒューのギターのカッティング音からして、違いがはっきりわかる。また、この時期のサウンドは、独特のリズム感がサウンドに格調高さをもたらしていると思っていたのだが、そのリズムに聴きごたえが増している。

日本盤解説や訳文においても、1999年盤と同じ方々によるものであっても、新たなライナーが書き下ろされていたり、以前の解説に最新の追加原稿が加えられていたり、改訂がされている箇所もある。

優れたアーティスト、バンドにたまに見られる傾向だが、オリジナルアルバムの「アウトテイク」に、驚くほどいい曲が入っていたりする。中には、正規収録曲よりもこっちの方がいいのでは?という曲までまれにある。ストラングラーズもその例外ではない。今回の各アルバムに収録されたボーナストラックにも、いい曲が沢山ある。
「オーラル・スカラプチャー」の「アキレス・ヒール」はかなりの名曲だと思うし、ヒューが、音響彫刻宣言文を読み上げる「オーラル・スカラプチャー・マニフェスト」は、アルバムの締めくくりに相応しい。「夢現」のラストを飾る「ヴィヴァ・ヴィラッド」は、彼らならではのほの暗いワルツの魅力が引き出されている。
また、「黒豹」でのボーナストラック「真夏の夜の夢~ユーロピアン・フィメール」ライヴバージョンでは、真夏の夜の夢の終盤、ジャン・ジャックのベースソロがだんだんと熱を帯びて行き、そのままユーロピアン・フィメールへとなだれ込むところは、白眉のシーンだ!

という訳で繰り返しになりますが、エピック・イヤーズの復刻5タイトルは、一生もののコレクションとして充分な価値を持っていると思います。価格も税別で1枚当たり2,000円と、これだけの手がかかっていながら、おどろくほどリーズナブルだ。ストラングラーズ来日公演会場でも販売されますので、この機会をぜひお見逃しなく!

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