このたびは、3日間のストラングラーズ来日公演にご来場、まことにありがとうございました。

ストラングラーズをはじめて聴いたのは、高校を卒業して、受験浪人生活に入った直後あたりの頃だったと思います。FMラジオのパンク・ロック特集で、セックス・ピストルズやクラッシュなどのパンク・バンドと共にストラングラーズの「ノーモアヒーローズ」がオンエアされ、インパクトのあるサウンドに一気に惹きつけられました。特に、ジャン・ジャック・バーネルの強烈なベースとヴォーカル、デイヴ・グリーンフィールドのサイケデリックなキーボードが好きでした。同世代のパンクロックバンドと比べても演奏能力も高く、なおかつメッセージやフレーズの主張にインパクトがありました。

なかでも最もハマったアルバムは、3作目にあたる「ブラック&ホワイト」です。彼らのスタイルを極限まで過激に高めた作品で、何百回もヘビーローテーションで聴いていました。それだけでなく、それまでのボーッと生きてきた自分自身に対して、このままではいけないぞ、と目覚めさせてくれる、精神面での強い影響力さえも受けましたね。恥ずかしい思い出をカミングアウトしてしまいますが、ブラック&ホワイトのブラックサイドをかけながら、腕立て伏せ100回とか、腹筋300回とか、やっていた時期もありました(笑)。

実は、小中学生の頃はクラシック少年でピアノも習っていました。しかしそのせいか、ロック系の音楽には、同世代の友達よりも触れるのは遅かったですね。高校生になってから、やっとロック系の音楽を聴きはじめました。当時のクラスメートの何人かの間では、ストラングラーズの名前は出ていましたが、パンク・ロック系のジャンルはまだよく知りませんでした。そんな訳でこのバンドにハマるまでに、同世代のファンよりも遅くなってしまいました。このためもあって、日本のファンの間で伝説的に語られている1979年の来日公演は、残念ながら未体験でした。しかし、好きになってからの熱狂度はすごかったです。

大学に入って音楽系のサークルで活動していたときは、ストラングラーズのトリビュートバンドで演奏していたこともあります。クラシックピアノでの経験を買われて、キーボードを演奏していました。ストラングラーズは1980年代に入ってもからは、初期の過激なスタイルから、ホーンセクションなどを導入し格調高い音創りと変わっていったのですが、「オーラル・スカラプチャー(音響彫刻)」「ドリームタイム(夢幻)」など、時代の流行に媚びることなく、今聴いても全く古さを感じない素晴らしいアルバムを残しています。1990年代に入りメンバーチェンジがあり、久々の来日を果たしたのですが、当時の自分の情報不足で、この来日公演さえも、残念ながら見逃してしまいました。

1990年代末期から21世紀の前半にかけて、ストラングラーズの活動状況がどうなっているか、よくわからない状況がしばらくありました。しかし、2004年に久々にリリースされた「ノーフォーク・コースト」というアルバムが、彼らの活動初期の熱気を呼び覚ますサウンドで、個人的にも久々にストラングラーズ熱が復活しました。さらに次に、「スゥイート・シックスティーン」という、彼らの集大成的な傑作ともいえる素晴らしいアルバムがリリースされました。そしていい流れの中で、2007年から2010年あたりにかけて、ザ・ストラングラーズの夏フェス出演や、ジャン・ジャック・バーネルのソロライブなどでの来日もあり、年数を経て、やっと彼らのライヴを体験することができたのです。で、いよいよ次は、単独来日公演がいずれあるだろう!と期待していたのですね。

しかしそれからは、待てど暮らせど、単独来日決定!の吉報を聞くことはありませんでした。一方で、彼らと同時期にデビューした他のパンク系のミュージシャンのいくつかは、けっこう来日していましたし。自分だけでなく、おそらくは多くの日本のストラングラーズのファンも残念な思いをしていた筈です。であれば、いっそのこと自分自身が発起人となって、彼らを日本に招聘するための動きをおこしてみたらどうだろうか?そういう大それた思いが沸き起こってしまったのは、2018年の初頭のことです。確かなあてもないまま「アバンダム合同会社」を登記し、銀行口座などの開設準備などと並行しながらも、本当に行動を起こしたらいいのか、その後もしばらく悩みました。

ちなみに、いままで何人かの方に、「アバンダム」ってどういう意味ですか?と聞かれましたので、ここで書いておきます。数の単位(一、十、百、千、万、億、兆、京・・・)の先に「アバンタ」という、ものすごく大きな数の単位があるらしいです。このアバンタと、「ダム(ストレージ、貯蔵庫)」を組み合わせた造語です。別に深い考えがあって付けた訳ではないのですが、語感が気に入ってこの社名にしました。

そして、2019年6月、まずはザ・ストラングラーズの日本でのマネージメントを手掛けられてきた加藤正文さんにご相談することはできないだろうかと思いました。

加藤さんにお会いするまでは、来日のための条件がどのようなものか、そもそも交渉のテーブルにつけるかどうかさえも全くわからない状態でしたが、ご助言をいただきながら英国のツアーマネージメントとの交渉を開始することができました。そして、加藤さんがかって在籍されていたH.I.P.さんをご紹介くださり、バンド招聘、企画、制作に関し、強力なご支援をいただくことができました。交渉が無事まとまるまでは、かなりの時間と粘り強い忍耐を要しましたが、なんとか実現に至ることができた訳です。そして、ストラングラーズ日本公式サイトを運営されているSIS JAPANさんには、本当に色々お世話になりました。また、ソニーミュージックジャパンさんより、エピック・イヤーズ復活5タイトルがリリースされることになったことは、たいへん嬉しかったです。
  
先行きがどうなるかわからない暗中模索の昨年を鑑みれば、こうしてザ・ストラングラーズの3日間来日公演が実現され、メディア媒体に様々な記事が出ている今の状態は、本当に感慨深いものがあり、感無量です。ようやく、自分自身にとっても多くのファンの方々にとっても、待望だった長年の夢が、晴れて実現いたしました!!!

アバンダムの今後ですが、現在構想中の企画はいくつかあります。これらについても、これまた実現まで粘り強い折衝を重ねていくことになりそうですが、皆様にお届けできるよう動いていきます。

本当にありがとうございました!

      
2019年11月6日 アバンダム代表 吉田泰章